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ページ2(360cc)

ページ3(550cc)

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いかがでしたでしょうか。
少しはハッチを知っていただけたでしょうか。興味を持っていただけたでしょうか。
結局当初の予定とは違って、むしろ360の方を大きく扱ってしまう形となってしまいましたが、まあ気にしない。

最後にナゾと言っては大袈裟ですが、現時点ではよくわからない不思議な部分をいくつかご紹介します。




■360車のふしぎ

また唐突ですが、フロンテハッチ360の型式は何でしょう?
カタログに書いてないのか?と思うでしょう。当然ちゃんと書いてあります。書いてあるのですがこれが謎なので。


今までのうろ覚えの知識ですと、四角いフロンテバンがLS10、途中で水冷車が出てこれがLS20、フロンテハッチに変わってこれがLS30・・・ではなかったかと。そうやって初期のものと思われるカタログを見ると・・・「型式 LS30」と。あってますね。
ところが年代的にそれより後の筈のカタログには、「LS20」と書いてあるのです。

カタログ一部だけならどっちかがミスプリ・・・と済ませてしまいそうになるところですが、これが困ったことに、「LS30」はこのカタログの他、48年5月発行の整備説明書にもしっかり書いてある。初期のパーツリストにも確かに書かれているものがあります。そして「LS20」の方も取扱説明書に記載だけでなく車台番号の写真がある上、実車で複数の個体が存在する(または存在した)のでこちらも絶対に譲らない。たまたまスズキのリサイクル料のページを見付けたのですが、これを見ると「LS20のフロンテバン」と「LS30のハッチ」はそもそもなかったことになっている。フロンテバンからモデルチェンジしても型式LS20をそのまま継続、何かの変更の折にLS30に進めた・・・というならまだ分かるのですが、数の少ない方へ、しかも一度使った番号へ逆行しているとしか考えられないのが全くもって摩訶不思議。
ありえない?まあ普通に考えるとありそうにないですねえ。でも、ありそうにないとありえないを混同せんように。(シャーロック・ホームズの冒険 「ウィステリア荘」 CV:露口茂)

整備説明書は確かに発売直後のものなのでここを足掛かりにすると、当初は28馬力だったものが途中で26馬力にダウンしています。根拠のない想像ですがこのタイミングでヒーターレスのE仕様が落とされ、更にここで型式が変わったのではないかと?どっちにしろ実際に逆に番号が戻っていたとしてもその理由はさっぱりか分かりません。



・・・と、ここまでが前回までのお話。かっこよく言うとPreviously on LS30。かっこよくないか。
しかるべきところでしかるべき資料を調べました。
スクロールしてご覧になる前に、このトリックの答えを少し考えてみて下さい。








資料として掲げたものは順に、
Car check book’73 くるまの見わけ方 乗用車・商用車編(日本自動車査定協会)と、 
「国産自動車変遷史 1973−1975」(自動車市場研究社)より転載したものです。
前者は名前の通り外観や仕様から車型やグレードを見分ける方法が載っており、後者は主に仕様の変更や改良の流れを追ったもので、型式や車台番号、主な変更点などが記載されています。

赤字に注意。









なによそれ。



とは言え、想定の範囲内の答えでもあったのも事実です。
想定の範囲内というか、「どっちも間違ってない」のだとしたらそれくらいしか考えられない。
「認定型式」というのは運輸省届け出の、あの車検証の『型式』欄に書いてある型式、「通称型式」の方はグレードや仕様なども含むもの、のようです。53年規制マークUセダンLGエクストラ5速衝撃吸収バンパー付きだと前者が「E-MX40」、後者が「E-MX40-XEMGE(EL)」と。たぶん。

しかしなんでまたそんなややこしいことを・・・
上物が新しくてもシャシー使い回しで車名変わっても型式同じというのならさほど不思議はないのですが、ホイールベース変わっているところからしてシャシー同じという風でもないし、そもそも型式の数は進めてるのに車台番号だけ続ける意味がよく分からない。第一次オイルショック後に「倹約節約すべきときに新型車を出すのは如何なものか」みたいな話になって、別車種の予定だったモデルをベースとした既存車種の1タイプということにして型式認定を取った・・・という話は聞いたことがあります(セレステ)が、今回の場合そういう時期でもないし。

この場合どっちが呼び名として正しい型式になるんでしょうね?「LS30」の方が正しいような気はしますが、正しい方を使うとより混乱を招く気がします。というかメーカー発行のカタログの時点でごっちゃにしてしまっているわけで、複数の資料を見ても明らかにごっちゃになっているのが分かります。



なお前出の本の他にもいくつかの資料をあたった結果、年代による流れは分かりましたのでご紹介します。

昭和48
(1973)年
〜3月 通称型式 フロンテバン
L50型水冷2サイクル2気筒359cc28馬力
48年排出ガス規制適合

グレードSTD/DX/スーパーDX
LS20
4月 LS30 フルモデルチェンジ
フロンテハッチ
L50型水冷2サイクル2気筒359cc28馬力
48年排出ガス規制適合

グレードE/B/D/T
昭和49
(1974)年
 
5月 一部改良
出力28→26馬力
車両重量低減(燃費対策)
E仕様廃止

グレードB/D/T
12月 一部改良
ナンバー大型化
昭和50
(1975)年
 
12月 H-LS30 保安基準改正安全対策
50年排出ガス規制適合
出力26→25馬力
カスタム仕様設定

グレードB/D/T/カスタム
昭和51
(1976)年
 
7月 H-SH10 新規格化
フロンテハッチ55
LJ50型水冷2サイクル3気筒539cc25馬力
50年排出ガス規制適合

グレードB/D/T
昭和52
(1977)年
 
昭和53
(1978)年
 
昭和54
(1979)年
 
5月 H-SS30V フルモデルチェンジ
アルト
T5B型水冷2サイクル3気筒539cc28馬力
50年排出ガス規制適合
10月 MX-B(2シーター)を追加


因みにこれら、確認できる範囲で全ての資料を突き合わせた結果、「ほぼ、こう」という程度のものと思っていただきたく。絶対と断言までは致しかねます。相当のところまで追い込めてるとは思っておりますが。

何しろ元々ややこしいせいもあるのでしょう、資料によって微妙に内容が違う。「変遷史」も変遷をちゃんと追えてないし、「みわけ方」も完璧には見分けられてない。発売当時の資料ですらこんなにごちゃごちゃになってるのですから、30年も経ってから調べたってごちゃごちゃしてるに決まってるってもんです。
それでもここまで解せれば個人的には大満足です。





■550車のふしぎ


(78年版の色見本)
本カタログに出ているT仕様、ボディカラーが「シャークシルバーメタリック」となっているのですが、ご覧のようにどう見てもダークグリーンにしか見えません。当時のロックペイントの色見本を見てもやや茶色がかったグレーメタで、実車との見え方の違いを考えてもここまで違うというのはちょっと考えにくい。
よくよく見ると内装の写真でパネルが露出しているところは程よいグレーメタ、この色なら納得できるのですが。


どうやらカラー変更がある前の550初期モデル(商用車カタログのタイプ)の本カタログでも、表紙や見開きで全く同じに見える写真が使用されているようです。持ってないけど。内装部分のグレーメタに見える部分もこの初期のゴールド(ルーブルゴールドメタリック)であってもそれほど違和感がありません。と言うことはもしかしてカラーが変わっただけなので写真を撮り直さず、初期のモデルの写真修正だけで済ませたのではないか?と。それにしても色が全然違うので不可解ではありますが。当初はシャークシルバーではなくグリーンメタの予定だったのが何かの事情で変わってしまって、また修正するのは間に合わないからカラー名だけ直して押し切った・・・とか。

写真修正を疑う理由は他にもあって、まず表紙を見るともうこれ明らかに何からの修正は確実に入っているんですね。写真のはずなのになんか絵っぽくなっている。それからダークグリーン車をよく見ていただくと分かるのですが、濃色にもかかわらずストライプが黒なので貼ってあるのが写真ではほとんど分からない。普通ならストライプを白に変えるところですが、ケチって黒のままにしたのかとも思えます。ところが取扱説明書を見ると一応白ストライプのクルマがあるんですね。ストライプだけ修正して目立たせるようにしている感じでもない。と言うことはやっぱりカラー変更時になにがしかの手違いはあったのではないかと。しかしながらこの辺りで更に混乱するのですが、その取説の白ストライプ車を見るとだいぶ黒っぽく写っていてあんまりグレーメタっぽく見えない。むしろダークグリーンの方が納得できるような色の濃さ。あれ?

少なくともゴールドメタのクルマは実車を見たことがある(当時隣町でよく見かけていて、解体屋で救うことができなかった1台)ので、こちらの方は間違いないと自信を持って言えるのですが、後期型のTは果たしてグレーメタだったのかグリーンメタだったのか。それとも単にゴールド、グレー、ダークグリーンと全てあったのか。3色あったのであれば初期がゴールド→マイチェンでダークグリーン→更にグレーへ変更、モデル末期だったこともあり写真は撮り直さず色名だけ書き変えてお茶を濁した・・・というシナリオも考えられます。ダークグリーンのクルマも写真だけは見ているのですが、当然再塗装の可能性があるので確証にはなりません。果たして真相や如何に。





追記:140609
…と、ここまでが今まで書いてあったお話。かっこよく言…言わなくていいですね。
『カラー変更がある前の550初期モデル(商用車カタログのタイプ)の本カタログ』としていたものが入手できました。
しかし裏表紙を確認したところ版は「53D」。ハッチ55の3年弱のモデルライフからすると中期型以降と見るべきでしょう。

それはそれとして、早速T仕様のカラーを確認してみますと…




シャークシルバーメタリック
あれ?

どういうことだよ!!



フロンテなどのカタログにも当たった結果、版の「53D」よりも「53F」の方が後の版であることは間違いないようです。
ですのでルーブルゴールド→シャークシルバーと変わったのは間違いありません。
問題はその後なわけですが、わざわざ版を変えていることからして、やはり塗色も変わったものと見て良いのではないかと思います。恐らくグリーン、「T仕様はメタリック」という縛りが生きていると考えるなら色見本から推測する限り「アバロングリーンメタリック」でしょうか。

「シャークシルバー」の表記が変わっていないことを根拠に、実は2回目の色変更はなかった…と考えることも可能ですが、それではわざわざどう見てもグリーンにしか見えない写真に差し替える意図が全く分からない。
写真は直したけどカラーネームの書き換えを漏らしたと言われる方がまだ納得が行きます。
というかじっくり見比べていて気が付いたのですが、修正写真ではないかと疑っていた53F版の表紙の写真、



で 別
し 物
た。


タテヨコ比がどうのという話ではありません。そもそも撮影アングル自体が微妙に違う。
じっくり見てみると最初の見開きのショットも違う!(ホイールのバルブ位置が違う)
荷室のカットも違う!!(積んでる荷物もシート裏面への写り込みも違う)
車内のカットもペダルの写真以外全部違う!!!(まちがいさがし   )
装備一覧の小さな走行カットさえ同じ場所での別撮り…(アングルも違うけど写ってる木の茂り方からして季節が違う)
どこまでも手間のかかることを…

実際の塗装の印象と写真でのそれが違い過ぎた…なんてことであれば写真の差し替えも不思議はありません。
しかしこの場合明らかに見た目「シャークシルバー」から離れる方向での変更であり、やはりグリーンのモデルが存在したと考える方が妥当なのではないでしょうか。



ちなみに今回改めてよくよく見比べているうちに53F版に「白ストライプのカットが!?」と一瞬色めき立ったのですが、原本でじっくり見る限り、ストライプテープの表面が光っているだけのようです。
またパーツリスト(最終版)も確認しましたが、やはりストライプは一種類しか品番設定されていませんでした。
どうやら白ストライプ車はだったようです。

追記:ここまで






あとこれは別に不思議でも何でもないのですが、360旧規格から550新規格になるにあたってボディパネルがかなり改められまして、ぐっと穏やかな顔になったのは前述の通りです。しかしながら商用車たるものまず何より大事なのはカーゴスペースなわけで、ボディ拡大によってどれだけ積載能力が上がったかは気になるところです。
そこで荷室寸法を見てみるというと・・・



旧360車


新550車

なんということでしょう。全く変わっていません。


意外にも、外板を大きく変えていながら車室部分は旧規格のまま、全くのキャリーオーバーなのです。
全長は伸びていますが、オーバーハング寸法でフロント65o/リア35oなのに対し、ホイールベース、それもバルクヘッドより先だけが95oと最も大きく延長されています。縦置き2気筒のエンジンを3気筒にするにあたってエンジンルームを拡大する必要があったのかと思いますが、ほぼまるっきりそれだけのために拡大寸法を全て使っていたとは予想外でした。幅が広がっているのもアウターパネル、主にフロントのフェンダーフレアがほとんど全てです。フロントトレッドをワイドにする意図ももちろんあったでしょうが、こちらはほとんど完全にデザイン代(しろ)として消化していることになります。

かくしてハッチ55は軽商用車としては異例(異常?)な程のロングノーズと、豊かなフェンダーフレアを得ることになったのです。軽バン界のスカGと呼びたい。伝統的に丸テールだし。サーフィンラインもあるし?



橙線が360車、緑線が550車。
ぴしゃっと合わないのは元々が手書きで左右対称になってないからです。





おまけ。

ハッチは商用車ですので、キャリイやジムニーと一緒のカタログに載っていることがよくあります。
そこでハッチの年代を特定するのに隣にいるキャリイの顔かたちが手助けになるのではないか・・・と少し調べ始めたら、これが出るわ出るわ、何種類あって何がどうなってるんだか、ぬかるみ加減たるやハッチの比ではなかったわ。

そんなわけでうっかり足を突っ込んで泥まみれになってしまった行き掛かり上、ひと通り調べました。
口元まで泥に浸かった成果をぜひご覧下さい。


スズキキャリイ・L50系の歴史




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